影の浸食
『影の事件』
「最近は、影達に飲まれる人々が続出しているんだよ」
影・・・?何それ?とサラは首を傾げる。
そうそう。とバルヴェー。
またえげつないモノが・・・と眉根を寄せているディルディス。
「で、君達、ソレを解決してきたらどうだい?運が良ければ、白い死神に会えるかもしれないしね」
「「・・・白い死神?」」
自分には時間がないコトをつい昨日、知ったばかりだ。
バルヴェーが続ける。
「白い死神って言うのはね、死者をも蘇らせる力を持つ者達だよ。
・・・全員生け贄として、捧げられてそれでも生き残った者だけだけど、ね。
耐え難い痛みと引き替えに、得た力ってヤツだね。
容姿が特徴的だから、教えとくよ。シロバーブロンドに、アメジストの瞳。
左右どちらかに、刻印があるはずだ」
「・・・でも、その・・・、生け贄なんて・・・何で?」
「・・・生き残る為の犠牲・・・だろうね」
「一体何に捧げた生け贄だよ?」
「影達にさ。影達は、人間の、しかも能力者を喰らう。肉体ではなく、記憶と、力をね」
どうする?とバルヴェーが訊く。
行こう。とサラが言った。
仕方ないか・・・と、頷くディルディス。
はい、と二枚の紙切れを渡す。
「これ・・・汽車の切符。・・・死なない程度に頑張っておいで」
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「よっと!」
ひょん!と、汽車の出入り口から飛び降りる。
後ろからディルディスも。
後ろでアナウンスが慌ただしく流れていた。
______________タープの町。
果物の栽培が主な町。
みずみずしい果物の香りが、鼻をくすぐる。
果物市場は、安売りや、目玉商品でわんさかしている。
サラとディルディスは市場の中心街を歩きながら、宿を探し兼、(けん)影の情報を集めている。
「で・・・、来たはいいけど・・・。どうする?」
「とりあえず、宿取りしとくか。もうすぐ、"オレンジ収穫祭"だろ?
満員になる前にチェックインしとこう」
「もう満員だったりして」
「まさかー(笑」
「そのまさかだったりして?
サラが中心街の地図を指す。
木の板に彫られた地図で、情報板にもなっているようだ。
「ほら、"満員"ってシールが、この地図の宿屋全部に貼ってある」
「おいおい・・・マジかよー・・・」
落胆したディルディスを横目に、どうするか考えるサラ。
他人の家に泊まり込むわけにもいかない。今日一日野宿ならまだ良いが、
なにせ祭りは、二週間ぶっ続けだ。
連泊客でいっぱいだろう。
「しょうがない・・・。野宿だね」
「やっぱりか・・・」
ディルディスがため息をつく。
しょうがないでしょ?とサラが呟く。
視界の端に、シルバーブロンドの髪が舞った。
髪の長さは、セミロング。
続いて飛び込んできたのは、アメジストの宝石のような瞳。
右眼は、前髪が掛かっていて見えない。
左目で、きょろきょろと辺りを見回している。
14歳位だろうか・・・。
「・・・ん?」
「・・・? どうした?」
「あのコ・・・もしかして・・・?」
道ばたのさっき気づいたシルバーブロンドの・・・性別不明の人物を指す。
「あのコ、博士が言ってた容姿にそっくりじゃない?」
「確かに・・・声、かけてみるか」
ディルディスが人物に踏み寄る。
どうやら気づいたらしい。
くるりと踵を返して、中心街を逆走する。
「あっ! ちょっと待て! 」
手を伸ばして捕まえようとしたが、人物の方が早かった。嵐のようなスピードで走り去っていく。
「追うぞ! サラ! ますます怪しいっ! 」
「分かったけど・・・。ケガさせないようにね」
疾走していくディルディスを追いながら、周りを見る。
(やっぱり空いている宿はないな・・・。)
そんなコトを考えながら、サラはディルディスのあとをついていった。
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「はぁ・・・はぁ・・・・ やっと捕まえたぞ! 」
逃げた人物の腕を引っ張ってずるずるとサラの方へと引きずる。
「あーあ・・・。引きずらなくてもいいじゃない・・・」
「この俺をコケにしたぞ! こいつっ! 」
「ぁぅ・・・。や・・・やめてよっ! 」
さっき、ディルディスに沈没された人物が言う。
「僕は、ヴォイス!いい加減放せっ! 」
人・・・ヴォイスがぽかぽかとディルディスの腕を殴る。
「痛くないぞー?この軟弱野郎」
からかいながら拳をぐりぐりと頭にする。
痛いー!と半泣きのヴォイスがだんだんかわいそうになってくる。
「や・・・やめてあげなよ・・・。弱いコいじめるほどバカじゃないでしょー!」
「こいつ、男だろ!?」
と・・・言った1秒後・・・。
ジーンズ生地がディルディスの肩にめり込む。
「いってぇ;;」
「冗談じゃないですよっ!僕は女です♪」
「「・・・・ぇ」」
「だから、僕は女です♪」
「・・・・(汗」
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タープの町。中心街。ギルドの酒場。
「なーんだ!僕を捜してたんですか」
「さっきはゴメン・・・。白い死神に会えば、呪いを解くヒントが貰えるって・・・」
「どんな呪いなんですか?見せて下さい」
「コレなんだけど・・・」
ネックシャツをずらして、印が見えるようにする」
紅い刻印をしばらく見て、呟く。
「また、凄いものをかけられましたね・・・。
古代呪文ですよ・・・。解くのも難しい・・・」
「ともかく、どうすればいいかは訊いている。
・・・元素能力者の血液って、集めるの難しいか?」
「運次第でしょうね・・・」
「うわ・・・悪運強い人が、ココに居るんだけど・・・」
「ぇ!?俺?!」
「まぁ、置いといて。宿がまだなんですよね?なんなら、一緒の部屋で良ければ、どうぞ?」
「ホントか!」
「ぁ。ディルディスはダメ♪」
「なんでだよ!?」
「僕を散々な目に遭わせたの、誰だっけ?」
「ぅ・・・(汗」
「ってコトで、サラはいいよ♪」
「(俺は無視かよ・・・)」
「えっと・・・ゴメンディル!」
「裏切り者っ!」
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タープの町。
真夜中、午前一時。
カタンッ・・・と、武器入れが壁に当たった音。
サラが、影退治の為の準備をしているのだ。
ヴォイスも行きたいとねだったが、危ないのでココに居てと行っておいた。
「サラって・・・眠くないの?」
「うん。大丈夫」
「慣れてるの?」
「うん。こんなの、しょっちゅうだから」
「・・・気をつけて行ってきてくださいね?」
「了解♪」
軽く敬礼してから、槍入れを背負い、銀弾銃二丁と、予備の銃一丁を、
ウエストポーチの右横のホルスターに入れる。
弾倉と、短剣をウエストポーチの左横に差し込む。
閃光弾や、爆雷筒、煙弾や、睡眠薬いりの煙弾をポーチに入れる。
「行ってきます♪必ず生きて帰ってくるよ♪」
「うん!」
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「ゴメン、待った?」
「別に」
「なら良かった」
ディルディスがタープの町の地図のコピーを広げて、指さす。
「ここの町は広い。二手に分かれた方が早く終わると思う」
「賛成。北か、南か・・・どちらにする?」
「お前が選んでいいよ」
「じゃぁ、北」
「じゃ、俺は南か・・・」
「だらだらしてても時間の無駄だから、行ってくるね」
「何かあったらカティテルで連絡よろしく」
「了解♪」
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自分のブーツの音しか聞こえない。
静かな夜。
「全然異常なしだね・・・」
周りを見回し、耳をすます。
・・・何も聞こえない。
・・・と、その時。
女性・・・と言うよりは少女の悲鳴。
わずかだったが、聞こえた。
レイプ魔
そういえば、ココは、強姦魔が多いって訊いたことがあるような・・・。
助けに行かなくては、ヤバイだろう。
普通の人間よりは足も速い、体力もあるが・・・魔法移動の方が早いだろう。
手を真っ直ぐ上に上げる。
眼を閉じて、呟く。
『風よ、我が声に答えよ・・・』
緑の光が体を包み込む。
『助けを求める声の元へ・・・ウィンディア!!!』
つむじ風が空に向かって上がっていく。
つむじ風が止んだあとには、サラの姿はなかった・・・。
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暗い町はずれ。
照明の明かりは、一応あるものの、電球の寿命が迫っているのか、点いたり、消えたりしている。
その町はずれに、強姦魔の住処がある、と言うわけだ。
被害に遭うのはいずれも少女。
未成年を狙うという、常識の無さも見てとれる。
いずれにしても、汚い奴らであることに変わりはない。
今日もまた、一人犠牲者が・・・。
ショートカットの金髪に、セリアン・ブルーの瞳の少女。
歳は、12〜14位・・・。
抵抗するものの、やはり力では負けてしまう。
だが、この少女もタダ者ではなかったわけで、悲鳴をあげながら、
ハンドバッグを振り回してボカスカ殴っている。
男たちも、これにはてこずっていた。
男たちは皆、20〜25位。
がっしりしている者もいれば、そうでない者もいる。
「あっ・・・! 」
手を滑らせて、ハンドバックが遠くへ飛んでいってしまった。
男たちが手を出そうとした・・・その1秒後。
まさに、あと一pで、少女の手に触れるところで、男の横っ面に、なぜかサッカーボールが・・・。
いい音がして、男の横っ面にめり込む。
「あんたたち!なーに未成年者に手を出してんの!?」
サラ到着。
サッカーボールは、すぐ近くにあった廃墟の学校から拝借してきた。
「おぉ〜!カワイコちゃんがもう一人!ついてるなぁ、俺ら!」
とのんきなコトをいう男が・・・。
「自分から犯されにきたのかい?」
「ばーか。んなコトしに来たんじゃない。強姦魔退治に・・・ね♪」
パキパキと、指を鳴らし始めた男たちに言う。
にやついているのは、自分が来たためか?
「お嬢ちゃん、やめときなって、ケガするぜ?」
「ご忠告どーも。あんた達の方が、よっぽど危ないけどね」
その瞬間。
サラの姿が一瞬で消えた。
「な・・・!?」
「何処に行った!?」
「幻か!?」
「まさか!?そんなハズないだろ!?」
右往左往している男達の上で、サラが笑う。
「あはは!あんたら、からかいがいがあるね〜♪」
「空中に!?」
「へへへ♪気づくの遅いよ〜♪さぁて、どうするかな・・・」
近くにいた男の後ろに降り立つ。
その突如。
「ちょっと寝てて」
「うぐっ!」
サラが男の首の後ろを銃底でたたく。
がくんと前に崩れ落ちる男を見届けてから、にっこりと笑った。
「金髪サン、今のうちに、町の方へ!」
「ぇ・・・でも!」
「だいじょうぶ。私、雑魚程度じゃ、負けないし」
「・・・ ・・・」
「早く!」
「わ・・・分かりました!」
金髪の少女は、町の方へと走っていく。
ともかく、彼女は無事に帰れる。
「あーぁ・・・。お嬢ちゃん、俺ら全員、相手してくれるってことだよね?」
「・・・ ・・・」
「あれー?黙り込んじゃったよ?どうしたのー?今更怖くなったとかー?」
「静かに!」
サラが小声で叫ぶ。
「あんた達、死にたいの!?」
「は・・・?何が」
「下。見てみなよ」
「下がなんだって・・・うわぁ・・・!?」
下にあったのは、影の触手のようなもの。
ぐにょん、ぐにょん・・・と動き、飲み込もうとしている。
動けば、気づかれて、飲まれるだろう。
「どうすればいいってんだぁ?お嬢ちゃん?」
「黙って、動かないで。死にたいヤツだけ、喚けばいい」
「ずーっと、ジッとしとけっていうのかよ!」
違う。とサラが呟く。
「影達は、殺す。足、動かさないで。じっとしてて。銃で撃ち殺す。近くまで弾痕が来ても、動かないで」
いつも使っている銃ではない、鉛弾の銃を取り出す。
銃弾が、肉に刺さるような音がした。
男たちの足下ぎりぎりまで、発砲する。
全部の影を殺すのに、結構かかった。
男達は、自首する。と言い出した。
罰が下ったのかも・・・。と怯えたためらしい。
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「なんか、あったか?」
「ん、影たちに危うく喰われるトコだったけど・・・」
「ぉぃぉぃぉぃ!だいじょうぶかよ!?」
「大丈夫。心配ない」
ディルディスが心配するのも無理はない。
サラが呟いた。
「明日、黒幕捜しに行こうか?大体、目星がついた」